2016年6月5日に乃木坂46の15枚目シングル選抜メンバーが発表された。先日発売された 2nd アルバムを挟んで、年初1月以来の選抜発表であった。
乃木坂46 7代目センターとなった齋藤飛鳥、そしてアンダーからの選抜となった中元日芽香、北野日奈子についてここに書いていきたいと思う。
乃木坂46の選抜
乃木坂46では各シングルごとに表題曲を歌唱する選抜メンバー(基本16人)を発表する。各シングルでの活動期間中は、この選抜メンバーが音楽番組に出たり、対外メディアで中心となって活動する。その分、露出の機会や活動の幅も選抜と非選抜の間では大きく差がある。そのようなこともあり、非選抜(アンダー)メンバーにとっては、ここが1つの目標にもなっている。
ここ1年以上選抜メンバーはほぼ固定となり、シングルごとの選抜発表すらマンネリ化していた。現在36人いるメンバーでも対外的に顔と名前を知られているメンバーは数えるほどで、乃木坂46として頻繁にコロコロ入れ替えるのもいかがなものかというのは確かに分かる。ただ、長期的なビジネスとしての1年と儚いアイドル人生の1年とは、その1年の価値はあまりにもかけ離れている。これまで卒業したメンバーのほとんどは、この15枚のシングルが発売した約5年の活動の中、記念と言わんばかりの選抜回数わずか1回あるいは0回のままグループを去っている。
停滞
問題はおそらく2014年10月発売の10thシングル「何度目の青空か?」に端を発するように思う。当時高校生の生田を新センターに据え、初の紅白にも内定と報じられるなど新たに迎える素晴らしい2015年を期待させていた。
ちょうどアンダーライブも軌道に乗り、グループ内でのアンダーメンバーの存在感が大きくなると、劇的な変化を容易に想像させた。10thシングル発売の前日に初のスキャンダルが報じられるまでは、そんな希望にあふれていたように思う。
出演発表前の話なので真偽までは分からないが、社会的な影響を考えた紅白内定の取り消しも取り沙汰され、当該メンバーへの対応も含めた運営への不信感も高まった。2015年は紅白を一つの目標とし、現体制での基盤強化のために1年が費やされてしまった。ただし、10thシングルまでたった3回の選抜経験しかなく、先述のアンダーライブをリードしてきた飛鳥の11thシングルでの選抜抜擢は、新センターの躍進へと繋がる小さくも大きな変化であった。
2016年を迎え、昨年末に初の紅白出場を果たし、新たな目標に向けて変化していく時がきた。しかし、年初14thシングルは深川麻衣卒業のためのシングルとなり、2作連続で選抜を外されていた堀が復帰し、特別に16+1人選抜となった以外の変化はやはり無かった。
深川卒業によってまた16人選抜に戻るだけと15th選抜には半分諦めの気持ちもあり、中元本人も言っていたように16人枠に戻ることが発表されたときにはもう終わったものと思っていた。
変化
そのような経緯があり、アンダーから中元日芽香、北野日奈子の選抜、新センター齋藤飛鳥という発表は、長く止まっていた時間が動くようで、喜びよりも驚きが勝った。しかしこの新体制に異論を述べる人はいないだろう。ある意味盤石なまでの、満を持しての大抜擢とも言える。
この停滞期での乃木坂46における大きな変化の1つとして、アンダー常連であった飛鳥に専属モデルの話も舞い込み、外仕事が一気に増えたことがある。気付けば人気は、西野・白石の2大巨塔の次点につけるほど爆発的に伸びていた。20代から活躍しだす比較的年齢層の高い乃木坂46にあって、弱冠17才1期生最年少飛鳥の躍進はグループが変わろうとしている象徴でもある。
そこで新センターとなる飛鳥がずっと苦悩し、腐りかけていたアンダー時代を支えた存在が2人いた。格差社会コンビとしてビジネス仲良し(?)の中元日芽香と、鳥とひなの親子丼コンビ、大親友の2期生北野日奈子である。そう、15枚目シングルでアンダーから2度目の選抜入りをする、まさしくその2人である。
夏の大三角形
乃木坂46の15th選抜はセンター飛鳥を頂点とし、この中元・北野の2人が最後列両端に配されたトライアングルがフォーメーションの核となっている。 “夏の大三角形”、そのような言葉が相応しい。
選抜入りすら誰も予想できなかった前日の北野のブログタイトルに、唐突にこの”トライアングル”というフレーズが使われている。今から思えば、伝えられないけど伝えたくて仕方ない、そんな不器用な北野らしいところが表れている。
飛鳥のセンターを支えるため、これまで選抜回数たった1回の中元・北野の2人が選抜に呼ばれたのである。
偶然か必然か、この2人は誰よりもアンダーから選抜に入ることに情熱を注いでいた。その真っ直ぐな姿勢をファンは強く支持し、アンダーにありながらグループ内でも上位の人気を誇っている。きっと仲の良い飛鳥がアンダーから選抜常連となり活躍する姿に、自らもそこを目指すべく頑張っていたのではないだろうか。
少し驚いたことに、この記事を書いている時、AKB48新聞の乃木坂46特集でこのフォーメーションを表す言葉として”夏の大三角形”というフレーズが登場した。やはり、乃木坂46としてもこの3人を軸とした展開を意識していたのだろう。アンダー時代の彼女たちの絆を見守ってきたスタッフがここに関わっていると思うと嬉しい限りだ。
齋藤飛鳥
飛鳥は夏の大三角形の頂点に位置するわし座の“アルタイル”担当。アルタイルとは天高く飛翔するワシを意味する。今まさにアンダーからグループのセンターへと登り詰めた飛鳥に相応しいポジションだろう。
センターに抜擢された飛鳥のその意気込みはブログに記されている。
これまでのセンターで唯一、選ばれないことのつらさを分かっているのが飛鳥だ。私なんかがセンターなんて… という言葉が、どれだけ無責任かを理解し、選抜発表の場で自らがそちら側となってしまったことを後悔している。そもそも選抜でいられることすら当たり前なんかじゃない。この選抜という位置は、なんとしても選抜に入りたいと努力し、それでも選ばれなかったメンバーが願っても手に入れることができなかった場所だ。自分の与えられた立場に否定的な意見を述べる、その無責任な発言にいつも傷つき、悔し涙を流してきたのだろう。
自らに与えられた場所は決して当たり前じゃないとよく理解し、アンダーから這い上がって、今グループの中心にいる自分を認めてほしい。選ばれなかった、才能あるメンバーたちの悔しさも背負っている。だからこそ皆の希望になるよう自らの役割を果たし、必死で努力していくと語る。
乃木坂46に、こんなにも心強いセンターが誕生したのだ。
中元日芽香
ひめたんこと中元のポジションはこと座の“ベガ”、日本では織姫という名前でも知られている。彦星(アルタイル)と対となり、乃木坂46を代表する”ひめ”にぴったりのポジションである。
アンダー時代、格差社会コンビとして飛鳥と格差社会の厳しさをよく語り合ったという中元の苦悩は、ここには語り尽くせないほどの想いが詰まっている。
元々Perfume等を輩出した広島のスクール出身であり、グループ随一のボーカル、ダンススキル、さらにはステージでの表現力までも併せ持つ中元。次こそは選抜にと言われ続け、7thシングル「バレッタ」で一度選抜に入って以来、3年近くずっとアンダーメンバーの中心として活躍してきた。同時に世界的なスターダムを登り続ける BABYMETAL のメインボーカルであり妹のSU-METALと比較されることも残酷な事実として重くのしかかる。
7thシングルでは中元は飛鳥と一緒に選抜に入ることができ、そしてお互いに一度きりのチャンスをつかめずまた選抜を外された。格差社会について語り合うようになったのは、この悔しい経験が一つのきっかけのようだ。
アンダーでセンターになると必ず選抜で活躍できるという流れがあったが、11thでアンダーセンターとなった中元にはそのチャンスは訪れなかった。本人に非はないのだが、そのチャンスをものにできなかったことをファンに申し訳ないと語ることすらあった。誰よりもファンを大事にし、ともに歩んできた中元だからこそ、選抜発表の場でファンへの感謝を述べ、深々とおじぎをする姿は心に刺さるものがあった。
最初こそ、どうしたら選抜に入れるのかと悲しさを滲ませていたが、ここ最近は非常に前向きな言葉を重ねていたと思う。ただ、この選抜発表後のブログで、それは強がりだったと分かるのだが、それもまた中元らしいところだろう。
乃木坂46は、誰もが強く願えば自分のやりたいことを実現できる場所で、選抜やアンダー、そのポジションに関わらず輝くことができる。中元が中心人物の一人でもあったこれまでのアンダーライブは、一流のライブスキルを持つ中元の存在を欠かすことは出来なかった。
アンダーながら高校卒業後からはグラビアで雑誌に登場する機会が増え、ついには週刊誌の表紙まで務めることとなった。さらに声の仕事をやりたいと語っていた夢は、冠ラジオである乃木坂46の「の」でのMCをきっかけに、今ではNHKラジオにレギュラーを持つまでになった。ずっと選抜には入れなかったが、吹っ切れたように自分のキャラクターを惜しげもなく披露し、かつそのよく通りハキハキとした高いナレーション力を遺憾なく発揮している。乃木坂46に欠かすことができない存在となった今、満を持して選抜としてのポジションが与えられたのだ。
北野日奈子
北野のポジションは、はくちょう座の“デネブ”。デネブとは尾を意味し、またの名を”続く者”、まるで北野の境遇に照らすようだ。
7thシングル「バレッタ」での2期生堀のセンターへの大抜擢に”続く者”として、8thシングルで2期生から選抜に入ったのが北野だ。13thシングルでは2期生が選抜に誰一人入ることができず、その危機感により2期生全員が絆を深め、意識を高めるきっかけとなった。15thで北野はまたこうして夏の大三角形を支える尾として選抜に舞い戻った。8thシングルの一度きりの選抜となったあの時とは違い、この2年半で覚醒した北野はもう堀の二番手では無い。
2015年の北野日奈子は、乃木坂46で最も成長した存在ではないかと思う。2015年の最初にあげたブログでその意気込みを知った時、この長い長い助走がきっとチャンスへとつながっていくのではないか、きっと面白くなるのではないかと感じた。
2期生のモバメが始まった時のことを覚えている人はどれくらいいるだろう。スタートダッシュでモバメをたくさん送り続ける北野の熱意は目を見張るものがあり、実際話題にもなった。さすがに一日何十通のモバメも長くは続かなかったが、空回りをしながらも、その時から現状を打破しようとする想いは誰よりも強かった。
2015年の11月から現在まで続く半年、北野は乃木坂46で唯一毎日ブログを書き続けている。ライブがあっても仕事が忙しくても必ず更新する。毎回コメントまでしっかり読み込みファンとのやりとりも欠かさない。ここに残された大量のブログ記事は、今の北野の人気を裏付ける努力の結晶である。
飛鳥や中元と同様にアンダーで腐りかけていた北野だったが、できることを確実にやろうと誰よりも努力し、しっかりと結果を残してきた。乃木坂46で初めてできたアンダーメンバーを中心としたユニットである「サンクエトワール」に中元とともに抜擢され、その勢いは留まるところを知らなかった。
しかし先に書いたように、14thシングルでこれまでと変化が無かったことにひどく落ち込み、それを受け入れるアンダーメンバーたちと距離をとっていたことを語っている。自分の今の目標は選抜であり、アンダーに甘んじることを受け入れたくないという意志を強くもっていた。
思い返せば、8thシングル「気づいたら片想い」で選抜となった北野は乃木坂46として初めての大きな壁にぶち当たる。2期生は当時アイドルそのものの経験が浅く、北野は歌もダンスもできない自分を自己嫌悪し続けていた。テレビでしゃべっているところをほとんど見ることもできず、何も結果を残せないまま9thシングルで選抜を外される。9thシングルで選抜に入った2期生はまた堀だけだった。堀の二番手を期待され次の2期生へバトンを渡せなかった北野は、完全に自信を失ったと語る。こうして一度選抜に入ったことで研究生降格ではなく正規メンバーとして、1期生のアンダーメンバーと同じ土俵に立たされることになった。
これがまた彼女にとって大きな試練となる。北野は正規メンバーとして、ここで初めての、そして1期生にとっては三度目となる「16人のプリンシパル」を迎える。「16人のプリンシパル」では、ステージ前半のオーディションで観客の投票により選ばれた16人以外は、後半の演劇に参加することができない。北野は”正規メンバー”で唯一、公演開始から16公演にわたって自分の立候補した役に選ばれることがなかった。この長い長い苦悩の毎日、プレッシャーに押し潰され、追い詰められていた北野を支えたのが、たまたま毎日席が隣だった齋藤飛鳥であった。
この3回目のプリンシパルでは、飛鳥も思うように結果が出せずステージ上で涙を見せることも多かった。北野と飛鳥はお互いにこの苦労を乗り越えようと励まし合い、日を追うごとにこの2人が急速に接近していったのが目に見えて分かった。1期生と2期生、年齢も離れている2人であったが、ともに泣き、ともに喜びを分かち合うことで、唯一無二の大親友となっていくのであった。
この「16人のプリンシパル」を経た2014年、飛鳥と北野の仲の良さは楽天SHOWTIMEの「のぎ天」で見ることができる。「のぎ天」の #26 お正月特番で飛鳥と北野は、この出会いに感謝し、お互いにとって大事な存在であることをはっきりと言葉にしている。15枚目の乃木坂46の活動を知る上で絶対に見ておいてほしい。
残念ながらアンダー時代を語る上で欠かせないアンダーライブは映像になってはいない。しかし、北野、飛鳥そして中元がいかにアンダー時代を過ごし、今のポジションに辿り着いたかの軌跡が「のぎ天」には詰まっているので、未視聴であればぜひおすすめしたい。
Hulu限定ではあるが、北野と飛鳥の絆は NOGIROOM でも知ることができる。北野は選抜で頑張る飛鳥のことを見て、寂しく思う反面、自分も頑張らないといけないと手紙に綴る。飛鳥はどうも、親友の北野のこととなると涙腺がゆるくなる。
そして飛鳥もまた、北野への手紙に自らの想いを込める。北野のことをよく知っているからこそ、いつも元気いっぱいの北野がどんな時でも笑顔でいなければいけないなら、私が代わりに涙を流す。そう手紙に綴っていた。選抜発表で北野の名前が呼ばれ、力強く選抜への意気込みを語る北野を見て、真っ先に涙を流したのは誰でもない飛鳥であった。それは、この2人の絆をどんな言葉より雄弁に語るものだった。
未来
乃木坂46に大きな変化が起こった。非選抜、アンダーというポジションでもがき続けていた飛鳥、中元、北野を中心とした “夏の大三角形” が、これからの乃木坂46の軸になる。
この夏、乃木坂46は三年ぶりに新メンバーとして3期生を迎える。そんなタイミングで大きな変化をしていくことを決断したのだ。アンダーメンバーはこれまで乃木坂46のライブアイドルとしての側面を牽引し、表舞台には見えないところで様々な物語を積み上げてきた。それが今の乃木坂46のメインストリームと合流したときにどのような化学反応が起こるかは、誰も分からない。だが、その変化を誰よりも望んでいたのは、彼女たちを応援し続けてきたファンであり、なによりそのメンバー自身である。
まだまだ乃木坂46として表に出ないところに、個性的な物語がいくつも埋もれている。アンダーとして苦悩した彼女たちが紡ぐ物語はとても興味深く、同時にアンダーメンバーにとっての希望でもある。次に自分たちがチャンスをつかむためにはどうしたらいいか、少しずつだが皆が動き始めている。
停滞していた乃木坂46に正直もう期待はしていなかった。しかしこうして変化を始めた乃木坂46には、またしっかりと注目していきたいと思えるだけの魅力にあふれている。46時間TVといった画期的な挑戦も成功を収め、あの「のぎ天」も「のぎ天2」として帰ってくる。そして3期生が乃木坂46にもたらす変化も未知数だ。
北野と仲を深めた飛鳥は、1期生最年少ながら2期生のほとんどが同い年ということもあり、2期生の中心的な存在にもなっている。2期生の生誕祭には、毎度他の2期生を引き連れて必ず参加するほどである。3期生を迎えて初めて先輩になる2期生には、これから大きな成長が求められている。その転機に、飛鳥が大きく関わってくることは想像に難くない。
2016年7月27日に発売となる乃木坂46の15枚目シングル、新センターの齋藤飛鳥、そして中元日芽香、北野日奈子が描く”夏の大三角形”から目を離さないでほしい。